海中回収:地盤からの引き抜き、上昇、水面からの引き上げ
海底から設備を回収する作業は、設置作業を逆にたどるだけではありません。設備は海底地盤に拘束され、重量には不確実性があります。船体のヒーブに任せて引くと、地盤から抜ける前にクレーン荷重がSWLを大きく超える可能性があります。引き抜き時に何が起こるのか、サクションケーソン回収事例でヒーブ補償装置がどう働いたのかを説明します。

- 回収には、設置時にはない荷重とリスクが伴います。海底地盤による拘束、海洋付着生物や内部に残った水・土砂による重量の変化、長年の使用で弱くなった構造です。
- サクションケーソンは引き抜きに抵抗します。速く引くほど、水がケーソンの下に十分な速さで流入できず、抵抗は強まります。ヒーブ補償装置のないワイヤでは、船体のヒーブが引く速さを決めます。
- ラインに組み込んだパッシブヒーブ補償装置はヒーブをストロークで吸収するため、ウインチでゆっくり一定に引くことができ、ケーソン下の吸引力を低く抑えられます。
- 当社のCONSTELLATION事例では、CYGNUS 700 t / 5 mを用い、Hs 2.5 m、深さ120 mの締まりのある粘土からØ6 mのサクションケーソンを引き抜きました。最大ライン荷重は566 tで、650 tのクレーンSWLの87 %でした。ヒーブ補償装置のないワイヤでは約1,280 tに達し、クレーンSWLのほぼ2倍でした。
設置では、重量が分かっている設備を準備された海底に降ろします。回収では、長年そこにあった設備を引き上げます。設備は土に拘束され、付着生物に覆われ、内部に水や土砂が残っていることも多く、設置時より強度が低下している可能性もあります。
海中回収が設置より難しい理由
- 海底地盤による拘束。 ケーソンやマッドマットの下に生じる吸引力と、スカートに沿う付着力・摩擦力が、設備が抜けるまで自重に加わります。
- 不確かな重量。 海洋付着生物、内部に残った水や土砂は重量を増やし、部品の欠損や腐食は重量を減らします。回収時の現状重量は、幅を持った推定値です。
- 弱くなった構造。 吊り点や構造部材は腐食や疲労で強度を失っている可能性があり、許容できる荷重が設置時より低い場合があります。
- 拘束からの解放。 海底地盤から抜けると、設備を押さえていた抵抗が一気に消えます。ワイヤや吊り具に蓄えられた伸びが設備を上方へ跳ね上げ、ラインがたるんだ後、急激な張力が生じることがあります。
地盤からの引き抜き
この問題が最も分かりやすいのはサクションケーソンです。通常は蓋の下に水を送り込んで押し出し、撤去します。それができない場合はクレーンで引き抜く必要があり、ここではその状況をモデル化しました。ケーソンを引き上げると、上部のバルブを通って内部に水が流入しなければなりません。流入が追いつかない速さで引くと、内部の圧力が下がって地盤の抵抗が増し、やがてケーソン内部の土が破壊されます。スカートに沿う摩擦力も加わりますが、その大きさは速度によってあまり変わりません。
ヒーブ補償装置のないワイヤでは、ウインチだけでなく船体のヒーブもケーソンを引きます。波のたびに速く引かれ、地盤の抵抗とライン荷重がともに増えます。その荷重の下でケーソンが抜けると、ラインに蓄えられた伸びがケーソンを上方へ跳ね上げます(図1)。
ラインに組み込んだパッシブヒーブ補償装置は、この挙動を変えます。装置が船体のヒーブをストロークで吸収するため、ケーソンを引く速さはウインチでゆっくり一定に設定でき、地盤の抵抗も低くなります。この事例では、ケーソンは0.1 m/s未満で安定して抜け、急激な解放は起きませんでした。地盤の拘束が一気に解ける場合も、装置の減衰作用が設備の上昇速度を抑え、ラインに蓄えられた伸びによる跳ね上がりを防ぎます。
上昇と水面からの引き上げ
地盤から抜けた設備は 水中を上昇し、ラインには水中重量に加えて抗力がかかります。ケーソン内に土が残り、構造物内に水が閉じ込められていることもあります。水面ではスプラッシュゾーン通過時の変化が逆向きに起こります。設備が水面から出るにつれて浮力が減り、保持していた水や土砂が空中重量に加わります。 DNV-RP-N103 では、回収時の補償装置のストロークを確認する際、この内部に残った水を考慮するよう求めています。 スプラッシュゾーンの通過 では、水面付近の荷重を説明しています。
サクションケーソン回収事例
当社の CONSTELLATION モデルでは、650 tクレーンを備えた作業船が、Ø6 × 10 mのサクションケーソン(空中重量107 t、水中重量93 t)をクレーンの引張りだけで回収します。深さ120 mの締まりのある粘土から、Ø0.5 mの上部バルブを介し、90 mmワイヤを3本掛けにして引き抜きます。海況はHs 2.5 m、Tp 8.0 sです。同じ吊り具と海況について、この作業向けに選定したCYGNUS 700 t / 5 mをラインに組み込んだ場合と、ヒーブ補償装置のないワイヤの場合を解析しました。
| 結果 | 補償なしワイヤ | CYGNUS使用時 |
|---|---|---|
| 最大ライン荷重 | 約1,280 t | 566 t |
| 650 tのクレーンSWLとの比較 | ほぼ2倍 | 87 % |
| ワイヤSWL 663 tとの比較 | ほぼ2倍 | 85 % |
| ワイヤ破断荷重1,658 tとの比較 | 77 % | 34 % |
| ケーソンの粘土からの引き抜き | 未達:約1 m上昇 | 達成:0.1 m/s未満で安定して引き抜き、解析開始から約4.5分でスカートが海底から完全に抜けた |
引き抜きが始まってから、装置はストローク端のストッパーに当たらず、主にストロークの下半分で作動しました。その間、ウインチはケーソンを粘土から安定して引き抜きました。解析はスカートが海底から完全に抜けた時点で終了しており、その後の上昇と水面からの引き上げは含みません。補償装置のないワイヤでは、ケーソンがまだ土に拘束され、約1 m上昇した段階でライン荷重がクレーンSWLを超えました。これは一つの海況時系列であり、CYGNUSもこの事例に合わせて選定しています。実際の回収では、対象設備、土質、船舶ごとにモデル化します。
装置の選定
RIGEL は甲板上で設定した値を維持します。 CYGNUS はガスを放出でき、 ANTARES はガスの放出と追加ができるため、どちらも引き抜き後に荷重が減った際、作動位置を中央へ戻せます。この事例ではCYGNUSの引き抜き時の設定を最後まで変えませんでした。数百トン向けに充填した状態では、ケーソンが自由に吊り下がり水中重量93 tになると、装置は閉じた状態でストッパーに当たるため、上昇と水面からの引き上げには別途確認が必要です。3機種とも定格水深は3,000 mです。不確実性が特に大きい引き抜きには、アクティブ制御で柔軟性を高められます。当社のアクティブ装置VEGAは開発中です。
出典と前提条件
- この回収事例は、引き抜き速度に応じて抵抗が変わるサクションケーソンをCONSTELLATIONでモデル化したものです。抵抗には外側スカートに沿う摩擦力と、Ø0.5 mの上部バルブを通る流量で決まる内部負圧を含めています。負圧の上限は、非排水せん断強さ約42 kPaの粘土について、土の逆向き支持力とキャビテーションのうち低い方で定めています。船体運動はクレーン先端に6自由度で与えています。解析範囲は引き抜きまでで、ケーソンのスカートが海底から完全に抜けた時点で終了します。
- 一つの海況時系列(Hs 2.5 m、Tp 8.0 s)。CYGNUS 700 t / 5 mはこの事例向けに選定され、全解析を通じてガス充填状態は同じです。
- 内部に残った水に関する要件は DNV-RP-N103(旧版: DNV-RP-H103 、2010年4月、4.7.7.4)に基づきます。
よくある質問
海中回収は設置よりなぜ難しいのですか?
設備は海底地盤に拘束され、設置時から重量が変わっており、構造強度も低下している可能性があります。地盤から抜けた瞬間に上方へ跳ね上がり、ラインに急激な張力がかかることもあります。設置時にはこれらの要因がありません。
サクションによる引き抜き抵抗とは何ですか?
サクションケーソンやマッドマットは、海底からの引き上げに抵抗します。ケーソンが上昇すると、上部バルブから下部へ水が流入する必要があります。流入が追いつかない速さで引くと、内部の圧力が下がり、地盤の抵抗が強まります。粘土上のマッドマットでは、吸引力が自然に消えるのを待つには時間がかかりすぎるため、吊り上げでその拘束を破る必要があります。スカートに沿う摩擦力も抵抗に加わります。
ヒーブ補償装置は引き抜き時にどう役立ちますか?
船体のヒーブをストロークで吸収するため、ウインチでゆっくり一定に引くことができ、地盤の抵抗を低く抑えられます。この事例ではケーソンが0.1 m/s未満で安定して抜け、急激な解放は起きませんでした。地盤の拘束が一気に解ける場合も、装置の減衰作用が設備の上昇速度を抑え、ラインに蓄えられた伸びによる跳ね上がりを防ぎます。
回収中に補償装置の設定変更は必要ですか?
設備が地盤から抜けた後に荷重がどれだけ下がるかによります。RIGELは甲板上で設定した値を維持し、CYGNUSはガスを放出でき、ANTARESは放出と追加ができます。当社のケーソン事例では引き抜きに合わせて設定したため、ケーソンが自由に吊り下がると装置は閉じた状態でストッパーに当たります。そのため、上昇と水面からの引き上げには別途確認が必要です。
回収モデルは何を示しましたか?
当社のCONSTELLATION事例では、作業向けに選定したCYGNUS 700 t / 5 mを用い、Hs 2.5 m、深さ120 mの締まりのある粘土からØ6 mのサクションケーソンを引き抜きました。最大ライン荷重は566 tで、650 tのクレーンSWLの87 %でした。補償装置のないワイヤでは約1,280 tに達し、クレーンSWLのほぼ2倍でした。これは一つの海況時系列で、解析範囲は引き抜きまでであり、その後の上昇は含みません。
海底からの設備回収を計画していますか?
以下をお送りください:
- 対象設備、回収時の推定重量範囲、吊り点
- 土質データ、または想定される引き抜き抵抗
- 船舶、クレーン、吊り具、海況
ヒーブ補償装置の有無それぞれについて、CONSTELLATIONで引き抜きをモデル化し、お客様の装置と吊り具に対して上昇と水面からの引き上げも確認します。
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