スプラッシュゾーンの通過

海中吊り作業では、吊り荷が海面の波を通過する領域がスプラッシュゾーンです。そこでスラミング、浮力、抗力、付加質量が吊り索の荷重にどう作用するか、緩んだスリングがどのようにスナップ荷重を生むか、そして35 tのカバーにパッシブヒーブ補償装置がどのような効果を示したかを説明します。

執筆: Tord Martinsen、CEO · 2026年3月 · 2026年9月更新 · 読了目安10分
海洋作業船の横で水線を通過するRIGELと黄色いGRPカバー。
要点
  • ここでは4つの作用が生じます。水が吊り荷に衝突する際のスラミング、水没が進むにつれて増す浮力、水中を移動する際の抗力、そして周囲の水が吊り荷とともに動き始めることで生じる付加質量です。
  • 上向きの力が吊り荷の重量を上回ると、スリングはいったん緩み、再び急に張ります。 DNV-RP-N103 では、上向きの流体力を吊り荷の水中最小重量の90 %以下に抑えることを求めています。
  • Hs 1.8 mにおける35 tのGRPカバーの当社検討では、RIGEL 75 t / 4.5 mにより吊り索の最大荷重が1,846 kNから655 kNに下がり、スリングが緩む事象はすべて解消しました。制約となったのはストローク余裕です。

スプラッシュゾーンを止まらずに通過する時間は通常1~2分ですが、浸水や排気のために吊り荷を保持すれば長くなります。それでも、この通過過程が吊り作業全体の許容海況を決めることが少なくありません。荷重が最も急速に変化する場所であり、軽くて投影面積の大きいペイロードは、入水時にスリングが緩むことがあります。

スプラッシュゾーンとは

スプラッシュゾーンは水線付近の領域で、吊り荷の一部が空中、残りが水中にあります。その高さは一定のm数ではありません。波の山と谷、クレーン先端の動きに従って変わるため、海況や船体応答が大きいほど広がります。吊り荷は下降時に通過し、回収する場合は上昇時にも再び通過します。

吊り索荷重を変える4つの作用

  1. スラミング。 入水時に水が吊り荷の下面や水平面に衝突します。その力は衝突速度の2乗に比例して増加します。 F_{\text{slam}} = \tfrac{1}{2} \rho\, C_s A_s v_s^2, ここで C_s はスラミング係数(簡易法では、滑らかな円柱で少なくとも3、それ以外では5)、 A_s は水に衝突する面積です。作用時間は短く、急激で、ペイロードや索具の構造確認を支配することがよくあります。
  2. 抗力。 水中を移動する吊り荷には水の抵抗が作用します。その力は相対速度の2乗に比例して増加します。 F_D = \tfrac{1}{2} \rho\, C_D A_p v_r^2, ここで A_p は下方から見た面積です。大きく平坦なペイロードでは、抗力が水中重量を上回ることがあります。
  3. 変動する浮力。 吊り荷の水没が進むと、浮力が吊り索の負担する重量を減らします。また、波が通過するたびに水没体積が変わり、吊り索荷重も変化します。 F_\rho = \rho\, \delta V g.
  4. 付加質量。 吊り荷の周囲の水も一緒に加速する必要があるため、水没が進むほど見かけの慣性が増します。クレーン先端と波が動くと、相対加速度に比例する力が加わります。

浮力の影響はペイロードによって異なります。密度の高い鋼構造物は水中でも重量の大部分を保ちます。一方、GRPカバーや大きなタンクを持つモジュールのように体積に対して軽いものは、重量の大きな割合を失い(中実GRPでは約半分)、大きな面積で波を受けます(図 1)。当社の 海中吊り作業 の記事では、抗力と付加質量を数値を用いて解説しています。

吊り荷の水没に伴う、水中重量に波力を加減した値の例。空中重量に対する割合で示します。鋼構造物は水中でも重量の約87パーセントを保ち、変動幅はゼロを上回ります。中実GRPカバーは約46パーセントを保ちますが、大部分が水没すると変動幅がゼロを下回り、波力が水中重量を上回ってスリングが緩みます。−20020406080100120140緩み鋼構造物GRPカバー050100水没割合 (%)水中重量 ± 波力 (空中重量比 %)
図 1. 軽いペイロードでスリングが緩む理由。吊り荷が水没すると、浮力が吊り索にかかる重量を減らし(実線)、波によってその周囲で力が上下します(帯)。鋼構造物は水中でも重量の約87 %を保ちますが、体積に対して軽い中実GRPカバーでは約半分になります。その大きな面積により変動幅はゼロを下回ります。ゼロ未満では波力が水中重量を超え、スリングが緩みます。図示の値は例示です。水没後の波による力を空中重量の±30 %および±60 %としています。

スリングの緩みとスナップ荷重

浮力と上向きの波力が吊り荷の重量を上回ると、スリングが緩みます。直後に再び張ると、吊り索にスナップ荷重が生じ、静的重量を大幅に超えることがあります。 DNV-RP-N103 の簡易法では、4つの作用を1つの代表流体力 F_{\text{hyd}}, にまとめ、次の基準でスリングの緩みを防ぎます。

F_{\text{hyd}} \le 0.9\, F_{\text{static,min}}

スリングの緩みを除外できない場合は、スナップ速度、巻上げ系の剛性、付加質量を含む吊り荷の質量から、次式でスナップ荷重を求めます。

F_{\text{snap}} = v_{\text{snap}} \sqrt{K\,(M + A_{33})}

ヒーブ補償装置が変えるもの

フックとスリングの間に直列に設置するパッシブヒーブ補償装置は、巻上げ系を柔らかくします。そのガススプリングはクレーン先端の動きをストロークとして吸収し、スリングへの伝達を抑えます。これにより、水に対する吊り荷の相対運動からクレーン由来の成分が減りますが、水自体の動きは残ります。抗力と付加質量による力が小さくなり、剛性の低下は K 上式のスナップ荷重も減らします。対象条件に合わせて選定すれば、スリングの張力を保てます。

ただし、3つの限界があります。通過中に補償装置のストロークを使い切ると、最大荷重が再び現れます。水没に伴って吊り索が負担する重量が減り、補償装置の釣合い位置が移るため、通過の各段階で使用可能なストロークを確認します。また、柔らかい系は固有周期が長く、その周期より十分短い波からのみ荷重を隔離し、固有周期付近では運動を増幅します。そのため、吊り作業モデルで運用時の波周期に対する設定を確認します。

アダプティブパッシブヒーブ補償装置の ANTARES は、通過時には剛性と減衰を高めた設定に切り替え、重量の変化と波荷重によるストローク使用量を抑え、通過後の深い位置では再び柔らかい設定にできます。

事例:Hs 1.8 mにおける35 tのGRPカバー

当社のCONSTELLATION検討 CS-2026-004では、35 tのガラス繊維強化プラスチック製保護カバーを、Hs 1.8 m、Tp 7.5 sの条件で作業船から海面を通して降ろしました。このカバーは、寸法の割に軽い大型の薄肉シェルという扱いにくいペイロードであり、入水時に波で持ち上げられる可能性があります。同じペイロード、海況、索具、8つの波浪実現値を用い、剛な索具の場合と RIGEL 75 t / 4.5 mを使用した場合を計算しました。

Hs 1.8メートルにおける35トンのGRPカバーの検討で得た吊り索の最大荷重。剛な索具では1,846キロニュートンで、定格SWL 736キロニュートンの2.5倍、スリングが緩む事象は8~11回でした。RIGEL 75トン、4.5メートルの装置では655キロニュートン、定格の89パーセントで、緩みはありませんでした。05001,0001,5002,000最大吊り索荷重 (kN)1,846 kN剛な索具緩み8~11回655 kNRIGEL 75 t / 4.5 m緩みなしSWL定格 736 kN
図 2. 同じ35 tのGRPカバー、海況、波浪実現値について、剛な索具とRIGEL 75 t / 4.5 mの装置を比較しました。Hs 1.8 m、Tp 7.5 sでの8つの実現値のうち最悪の結果です。検討 CS-2026-004、CONSTELLATIONでモデル化。
8つの実現値のうち最悪値剛な索具RIGEL使用時
吊り索の最大荷重、RIGEL装置のSWL 736 kNとの比較1,846 kN (2.5×)655 kN (89 %)
ペイロードのDAF、当社の2.0のスクリーニング基準との比較5.381.91
1回の計算におけるスリング緩み事象110
スナップ荷重比、スリング緩み限界0.90との比較1.000.36
支配側(収縮側)で使用したストローク、当社の90 %余裕基準との比較補償装置なし98.4 %

8回の計算を通じて、DAFは剛な索具で3.41~5.38、RIGEL使用時で1.15~1.91、支配側で使用したストロークは83~98 %でした。スナップ荷重比は、水中重量に対する吊り索張力の低下量を、その重量に対する割合で表したものです。1.00でスリングが緩み、0.90という限界は、 DNV-RP-N103 のスリング緩み基準をシミュレーションの張力に適用したものです。DAFとストロークのスクリーニング基準はこの検討における当社の基準であり、DNVの限界値ではありません。

補償装置を用いた計算では、すべての波浪実現値で4つの応答スクリーニング基準を満たしました。制約はストロークでした。8回のうち4回は支配側(収縮側)へのストローク使用量が90 %を超え、最大98.4 %に達しましたが、終端ストッパーには接触していません。実際の吊り作業の前には設定を再検討する必要があります。Hs 2.0 mでは、試したどの設定も4つの基準をすべて満たしませんでした。 GRPカバーの検討を読む →

CONSTELLATIONでシミュレーションした、RIGELによるGRPカバーのスプラッシュゾーン通過。

通過作業の計画

  1. 海況をスクリーニングする。 作業で想定される波高、周期、波向について、クレーン先端での船体運動を含めて通過を計算します。その結果から運用可能範囲を定めます。 気象海象の作業可能時間帯 を確保するには、作業全体を通じて予報がその範囲内に収まる必要があります。
  2. 通過速度を選ぶ。 降下速度を上げるとゾーン内の滞在時間は短くなりますが、衝突速度とスラミングは増します。 DNV-RP-N103の簡易法では、フック速度として通常0.5 m/sを用います。当社事例の降下速度は0.16 m/sでした。
  3. 張力の最大値と最小値を確認する。 最小張力はスリングが緩むかどうかを決め、最大荷重はクレーン、ワイヤー、索具が耐えられるかを決めます。両方の確認が必要です。
  4. 時刻歴解析で確認する。 波、船体、クレーンと索具、吊り荷の流体力、補償装置を含む時刻歴モデルから、最終確認に必要な張力、運動、ストロークを求めます。 CONSTELLATION では、補償装置の有無の両方について計算します。
出典と前提条件
  • スラミング、抗力、変動する浮力、スリング緩み基準、スナップ荷重は、 DNV-RP-N103(旧 DNV-RP-H103)の簡易法に従います。.
  • この事例は当社のCONSTELLATION検討 CS-2026-004 (改訂C、2026年8月5日)に基づきます。対象は35 tのGRPカバー、RIGEL 75 t / 4.5 m、Hs 1.8 m、Tp 7.5 s(JONSWAP)で、各120 sの波浪実現値を8つ用いました。表の各値は、その指標についての最悪値です。SWL 736 kNはRIGEL 75 t装置の定格で、吊り索荷重はカバー上部の4本脚スリング群で測定しました。カバーは15 × 12 × 3 mのシェルで、排水体積は10.73 m³、水中でも重量の約69 %を保ちます。これはスクリーニング検討であり、認証済みの解析ではありません。
  • 図 1は例示です。鋼の密度を7.85 t/m³、中実GRPを約1.9 t/m³とし、波による力は図の説明に記載した値を用いています。

よくある質問

スプラッシュゾーンとは何ですか?

水線付近で、吊り荷の一部が空中、残りが水中にある帯状の領域です。高さは波とクレーン先端の動きに従い、海況や船体によって変わります。

海中吊り作業でスプラッシュゾーンが重要な段階となるのはなぜですか?

ここでは荷重が最も急速に変化します。水の衝突によるスラミング、水没に伴う浮力、水中移動時の抗力、水が一緒に動くことによる付加質量が作用します。軽くて面積の大きい吊り荷ではスリングが緩み、再び張る際にスナップ荷重を受けることがあります。そのため、この通過過程が吊り作業の許容海況を決めることが少なくありません。

スナップ荷重とは何ですか?

緩んだスリングやワイヤーが再び張る際に生じる、短時間で急激な荷重です。 DNV-RP-N103 では、上向きの流体力を吊り荷の水中最小重量の90 %以下に抑えてこれを回避することを求め、回避できない場合の荷重の算定方法も示しています。

スプラッシュゾーンでヒーブ補償装置はどう役立ちますか?

クレーン先端の動きをストロークとして吸収し、水に対する吊り荷の相対運動からクレーン由来の成分を減らすことで、作用する力を小さくします。対象条件に合わせて選定し、ストロークに余裕があれば、スリングの張力を保てます。Hs 1.8 mにおける35 tのGRPカバーの当社検討では、RIGEL 75 t / 4.5 mにより吊り索の最大荷重が1,846 kNから655 kNに下がり、スリングが緩む事象はすべて解消しました。

スプラッシュゾーンを通過させるのが難しいペイロードは何ですか?

体積に対して軽く、面積の大きいものです。カバー、タンク、浮力の大きいモジュールは、水没すると吊り索にかかる重量が大きく減る一方、広い面積で波と水の抗力を受けます。密度の高い鋼構造物は水中でも重量の大部分を保つため、比較的容易です。

スプラッシュゾーンでの作業に適した補償装置はどれですか?

吊り作業全体を1つの設定で行える場合はRIGELまたはCYGNUSが適します。通過時に他の段階より剛性と減衰を高めた設定が必要な場合は、アダプティブパッシブヒーブ補償装置のANTARESが適します。ペイロードと海況に対する適合性は吊り作業モデルで確認します。

ペイロードをスプラッシュゾーンに通しますか?

以下をお送りください:

  • ペイロードの質量、形状、浮力
  • 索具、クレーン、船舶
  • 海況、通過速度、合格基準

CONSTELLATIONで補償装置の有無を含めて通過をモデル化し、装置を選定します。

吊り作業の条件を送る →

関連製品

  • RIGEL:パッシブヒーブ補償装置
  • CYGNUS:パッシブヒーブ補償装置
  • ANTARES:アダプティブパッシブヒーブ補償装置

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