洋上風力におけるヒーブ補償

洋上風力の施工で、吊り荷と直列に設置するヒーブ補償装置や衝撃吸収装置が役立つ場面は3つあります。浮体式風力設備や基礎の海中吊り作業、浮体式作業船からの荷の据付け、打設中の杭の急速貫入です。一方、グリッパー、ガイド、タグラインが担う作業もあります。

執筆: Tord Martinsen & Peter Wang · 2026年4月 · 2026年9月更新 · 読了まで10分
変化する沿岸の光の下にある3枚翼の洋上風車と黄色のトランジションピース。
概要
  • 海底に脚を立てて船体を持ち上げたジャッキアップ船では、波によるフックのヒーブは生じません。浮体式作業船では、船体のヒーブ、ロール、ピッチに伴ってクレーン先端が動きます。
  • 直列に設置する装置が役立つ場面は3つあります。サクションアンカー、テンプレート、保護カバーなどをスプラッシュゾーンを通して海底へ降ろす海中吊り作業。固定物への接触後、ストロークでクレーン先端の動きを吸収し、荷を再び引き上げるような急激な変動を避けて索張力を緩やかに変化させる、浮体式作業船からの据付け。そして、衝撃吸収装置でクレーンへのピーク荷重を抑える、打設中の杭の急速貫入です。
  • 作用するのは鉛直方向の荷重経路だけです。水平方向の位置と向きの制御には、ガイド、グリッパー、タグラインが必要です。
  • 当社の直列設置型装置は12.5から10,000 t(RIGEL、CYGNUS、ANTARES)をカバーし、POLARIS衝撃吸収装置の範囲は75から4,000 tです。各装置は、船舶、クレーン、索具、ペイロード、海象を含む吊り作業モデルに基づいて選定します。

洋上風力の吊り作業の多くは、脚を立てたジャッキアップ船か、浮体式の重量物運搬船・建設作業船から行います。クレーンがどちらに載っているかでフックにヒーブが伝わるかどうかが決まり、直列設置型ヒーブ補償装置に求められる働きも大きく変わります。

ジャッキアップ船と浮体式作業船

船体を持ち上げたジャッキアップ船は海底に脚を立てているため、波で船体やクレーンがヒーブすることはありません。吊り作業を左右するのは、部材に当たる風、クレーンと構造物の柔軟性、そして荷を受け取る相手や据え付ける先の動きです。横付けしたフィーダー船がその一例です。それでも、直列設置型装置が役立つジャッキアップ船の作業は2つあります。浮体式フィーダー船から荷を吊り上げる際は、荷が甲板から離れるまでフィーダー船とともに動きます。また、スプラッシュゾーンを通る海中吊り作業では、クレーンを載せた船舶にかかわらず波の影響を受けます。当社の クイックリフティング の記事では、アダプティブ型装置を使って、動く甲板から荷を素早く離す方法を紹介しています。

浮体式作業船は波に合わせて動き続けます。クレーン先端の鉛直方向の動きは、船体のヒーブ、ロール、ピッチが合わさったものです。ロールの寄与は船体中心線から先端までの距離、ピッチの寄与は船体中央から先端までの距離に応じて大きくなります。そのため、先端が舷側に大きく張り出す場合や船首・船尾寄りにある場合は、船体のヒーブより大きく動くことがあります。この動きは、剛性の高いワイヤーとスリングを通じて荷に伝わります。当社の 船体運動 の記事では、その計算方法を説明しています。

直列設置型装置が役立つ場面

浮体式風力設備と基礎の海中吊り作業

浮体式風力設備のサクションアンカーや係留金物、先行杭打ち用テンプレート、海中構造物、保護カバーは、浮体式作業船からスプラッシュゾーンを通して海底へ降ろします。ほかの海中吊り作業と同じく、スプラッシュゾーンではスラミング、抗力、浮力、付加質量が作用し、その後は海底への着底速度が問題になります。直列に設置したパッシブヒーブ補償装置は吊り系の剛性を下げ、スナップ荷重を低減し、着底時に荷へ伝わるクレーン先端の動きを減らします。Hs 1.8 mにおける35 tのGRP製カバーを対象とした当社のスプラッシュゾーン検討では、RIGEL 75 t / 4.5 mにより索のピーク荷重が1,846 kNから655 kNに下がり、スリングの弛み事象はすべて解消しました。制約となったのはストロークの余裕です。 スプラッシュゾーンの通過 と 海中吊り作業 で、作用する荷重を説明しています。

浮体式作業船からの荷の据付け

浮体式作業船から、既設杭へのジャケット、モノパイルへのトランジションピース、海底へのテンプレートなどの荷を固定物に据え付ける際、最初の接触後もクレーン先端は動き続けます。索具が剛性の高い構成だと、クレーン先端が上がるたびに荷が再び持ち上がり、下がると強く接触します。十分な長さのワイヤーを繰り出すまで、この動作が繰り返されます(図1)。

剛性の高い索具では、最初の接触後もクレーン先端がヒーブし、トランジションピースがモノパイルのフランジから再び持ち上がって強く接触する動作が繰り返されます。モノパイルクレーン先端ヒーブトランジションピース再び浮く、強く接触A 剛性の高い索具
フックとスリングの間にパッシブヒーブ補償装置を直列に設置すると、クレーン先端のヒーブを装置のストロークで吸収します。索張力が緩やかに変わり、ワイヤーを繰り出すにつれてトランジションピースがモノパイルのフランジに落ち着きます。モノパイルクレーン先端ヒーブ補償装置伸縮トランジションピース徐々に着座ワイヤー繰出しB 補償装置を直列設置
図1. 浮体式作業船から固定基礎へ荷を据え付ける例。ここではモノパイル上のトランジションピースを示します。(A)剛性の高い索具では、クレーン先端が上がるたびに荷を再び持ち上げ、十分な長さのワイヤーが繰り出されるまで強く接触する動作を繰り返します。(B)パッシブヒーブ補償装置を直列に設置すると、接触後のクレーン先端の動きがストロークに変わり、荷を再び引き上げるような急変を避けて索張力が緩やかに変化します。ワイヤーを繰り出すにつれて荷が落ち着き、その重量が基礎へ移ります。繰出し量と装置の調整は吊り作業モデルで確認します。位置合わせは別途ガイドが担います。模式図であり、縮尺どおりではありません。

パッシブヒーブ補償装置を直列に設置すると、接触後のクレーン先端の動きをストロークで吸収し、荷をフランジから再び引き上げるような急変を避けて索張力が緩やかに変化します。ワイヤーを繰り出すにつれて装置は縮み、発生力が下がって荷重が基礎へ移ります。それまでは着座面にかかる荷重がごく小さいため、ワイヤーの繰出しは引き続きクレーン先端の動きに先行させる必要があり、荷を吊った状態の装置の固有周期も波の周期から離しておく必要があります。吊り作業モデルでは、施工時の海象について接触速度、ストローク、調整値を確認します。ANTARESには、バルブを開いてEQ機能を解除し、荷を穏やかに据え付ける着底モードもあります。

打設中の杭の急速貫入

モノパイルやピンパイルは通常、油圧ハンマーで打設します。杭先端が軟弱な地層に達すると、杭が急速に貫入することがあり、クレーンの索はまだ吊っている部分を制動しなければなりません。クレーンの吊り索に設置した POLARIS 衝撃吸収装置は、ストローク中の力をバルブの設定値付近に抑え、制動時の荷重がそのままクレーンに伝わるのを防ぎます。 杭の急速貫入への対策 では、この荷重ケースとサイジングを説明しています。

対応できないこと

直列設置型ヒーブ補償装置が作用するのは、鉛直方向の荷重経路です。荷を水平面内で位置決めしたり回転させたりすることはできません。これらはガイドやバンパー、動揺補償機能付き杭グリッパー、タグラインの役割であり、吊り計画には通常いずれかが必要です。また、フックも荷の支持部も動かない吊り作業には効果がありません。ジャッキアップ船自身の持ち上げた甲板からナセルやブレードを吊る場合、支配的なのは部材に当たる風とクレーン自体の動特性です。

洋上風力の吊り作業一覧

吊り作業通常の作業船主な支配要因直列設置型装置
モノパイルの起こし、降下、打設杭グリッパーを備えた浮体式作業船、またはジャッキアップ船グリッパーによる位置制御、打設中の杭の急速貫入リスク急速貫入にはPOLARIS、位置保持にはグリッパー
モノパイルへのトランジションピースの設置ジャッキアップ船または浮体式作業船位置合わせ、フランジまたはグラウト支持部への据付け浮体式作業船からの施工では、補償装置で据付け時の衝撃を緩和可能。吊り作業ごとに選定
既設杭へのジャケット設置浮体式重量物運搬船、場合によってはジャッキアップ船スプラッシュゾーンの通過、その後の海底の杭への据付け。位置合わせには差込みガイドを使用補償装置でゾーン通過時と据付け時の衝撃を緩和可能。吊り作業ごとに選定
ジャケットへの洋上変電所トップサイドの設置浮体式重量物運搬船バンパーとガイドを用いたジャケットへの据付け補償装置で据付け時の衝撃を緩和可能。吊り作業ごとに選定
テンプレート、アンカー、海中構造物、保護カバー浮体式建設作業船スプラッシュゾーンでの荷重と海底への着底RIGEL、CYGNUS、ANTARES
タワー、ナセル、ブレードジャッキアップ船部材に当たる風、高所での位置合わせジャッキアップ船自身の甲板からの吊上げには不要。浮体式フィーダー船から吊り上げる場合はANTARESのクイックリフト

洋上風力の吊り作業に合わせた装置の選定

装置の選定には吊り作業モデルを使います。施工時の海象におけるクレーン先端の船体運動、クレーンと索具、ペイロードの質量・形状・流体力特性、着底または据付けの基準を考慮します。重量物の吊り作業では、装置自体の長さと重量も、クレーンのフック高さと定格荷重表の制約に含めます。 CONSTELLATION で補償装置の有無それぞれについて吊り作業を解析し、荷重、使用ストローク、余裕を報告します。

RIGEL (55から1,000 t)、 CYGNUS (12.5から10,000 t)、 ANTARES (30から4,000 t)は直列設置型の吊り作業に対応し、いずれも定格水深は3,000 mです。ANTARESは吊り作業中に設定を変更できます。スプラッシュゾーンでは剛性と減衰を高め、その下では柔らかくし、バルブを開いてEQ機能を解除する着底モードでは穏やかに据え付けます。動く甲板から荷を素早く離すクイックリフトも可能です。POLARIS衝撃吸収装置の範囲は75から4,000 tです。

出典と前提条件
  • 海中吊り作業で挙げた荷重は DNV-RP-N103に基づきます。事例の数値は、当社のCONSTELLATIONによる検討 CS-2026-004 (35 tのGRP製カバー、RIGEL 75 t / 4.5 m、Hs 1.8 m、Tp 7.5 s、8回の実現値のうち最悪のケース)によるものです。スプラッシュゾーンの通過だけを対象としたスクリーニング検討であり、着底や据付けの段階は含まず、認証済みの解析でもありません。図1は模式図です。
  • 施工方法の説明は一般論です。個々の工事の方法、船舶、機器は、その工事の設計によって決まります。
  • 製品の範囲は2026年9月時点の当社製品データに基づきます。

よくある質問

洋上風力の施工にヒーブ補償は必要ですか?

海底に脚を立てたジャッキアップ船からの吊り作業の多くでは不要です。波でクレーンが動かないためです。ただし、浮体式フィーダー船から荷を吊り上げる場合と、スプラッシュゾーンを通る海中吊り作業は例外です。浮体式作業船ではクレーン先端が波とともに動くため、その影響が大きいスプラッシュゾーンでの海中吊り作業や、固定基礎または海底への据付けで、直列設置型補償装置が役立ちます。

ヒーブ補償装置はフィーダーバージからの部材の吊上げに役立ちますか?

役立ちます。ジャッキアップ船のフックは静止していても、浮体式フィーダー船上の部材は甲板から離れるまで船とともに動きます。巻上げが遅いと、甲板が再び部材に接触することがあります。ANTARESのようなアダプティブ型装置なら荷を甲板から素早く離せますが、クレーン、フック高さ、部材との適合性は吊り作業モデルで確認します。

ヒーブ補償装置と杭グリッパーはどう違いますか?

ヒーブ補償装置は鉛直方向の荷重経路に直列に作用し、クレーン先端の動きをストロークで吸収します。動揺補償機能付き杭グリッパーは、浮体式作業船からモノパイルを降ろして打設する間、水平方向の位置を保持します。役割は異なります。

衝撃吸収装置は杭の急速貫入時にクレーンをどう保護しますか?

打設中に杭が急速に貫入すると、クレーンの索はまだ吊っている部分を制動しなければなりません。クレーンの吊り索に設置したPOLARISなどの衝撃吸収装置は、ストローク中の力をバルブの設定値付近に抑えます。これにより、制動時のピーク荷重がそのままクレーンにかかるのを防ぎます。

洋上風力に適したNorwegian Dynamicsの装置はどれですか?

直列設置型の吊り作業には、12.5から10,000 tをカバーし、定格水深が3,000 mのRIGEL、CYGNUS、ANTARESがあります。杭の急速貫入にはPOLARISを使用し、その衝撃吸収装置の範囲は75から4,000 tです。機種はペイロード、船舶、海象を含む吊り作業モデルに基づいて選定します。

洋上風力プロジェクトの吊り作業をご検討中ですか?

次の情報をお送りください:

  • 部材、その質量と索具
  • 船舶とクレーン
  • 海象、着底または据付けの基準

CONSTELLATIONで補償装置の有無それぞれの吊り作業をモデル化し、装置を選定します。

吊り作業の条件を送る →

関連製品

  • POLARIS:クレーン用衝撃吸収装置
  • RIGEL:パッシブヒーブ補償装置
  • ANTARES:アダプティブパッシブヒーブ補償装置

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