改訂 A
発行 2026年8月4日
モデルによる推定
杭の急落を制動:POLARIS衝撃吸収装置が5 m/sで下降する1,500 tを受け止める
杭打設中に地盤の支持が失われた際、クレーン用衝撃吸収装置が制動荷重に与える影響。同一の入力条件で、装置の有無を計算して比較した。
支配的な結果
同一条件で比較した剛結リンクの解析では、フック荷重のピークは37,664 kNで、記載のクレーンSWLの154%に達する。
同じモデルでPOLARIS 2,000 t / 6.0 mの装置を使うと23,627 kN(SWLの96.4%)となり、
5秒間の制動区間に完全なたるみは生じない。
地盤の支持が失われるとき
打設中、杭を支えているのは地盤の抵抗である。弱い地層でその抵抗が失われると(
杭の急落)、杭とそれに固定されたハンマーは一体となって下方へ加速し、クレーンとの接続を保つ荷重伝達経路が、この移動質量を制動しなければならない。この移動質量は1,500 tで、1,200 tの杭と300 tのハンマーからなる。伸びた索具がその全重量を支える時点、すなわち静荷重を全量負担した時点で、下降速度は5.0 m/sである。
これは波浪中の吊上げではなく、1秒未満の衝撃である。船体運動を無効にし、海象条件を与えていないため、荷重伝達経路そのものがエネルギーにどう作用するかを切り分けられる。比較は同一条件で行う。両ケースに同じパラメータを使い、反事実ケースでは吸収装置だけを剛結リンクに置き換える。
制動事象の全条件
以下が制動事象の全定義である。記載のない条件にはモデルのデフォルト値を用いる。両ケースはこの1組のパラメータから生成し、吸収装置の有無以外に異なる項目があれば解析は開始しない。
| パラメータ | 値 | 根拠 |
|---|---|---|
| 衝撃質量 | 1,200 tの杭 + 300 tのハンマー、固定 · 1,500 t | 例示値 |
| 急落速度 | 静荷重を完全に負担した時点で5.0 m/s | モデル設定 |
| クレーン | 巻上げ系17,454 kN/m · SWL 24,517 kN(2,500 t) | 例示値 |
| フックと索具 | フック160 t · スリング49,763 / 46,653 kN/m | モデル設定 |
| 衝撃吸収装置 | POLARIS 2,000 t · ストローク6.0 m | 製品データ |
| 弁と初期充填 | 弁18,000 kN · 初期充填15,696 kN · ガス0.40 | ND技術部門 |
| 海象条件 | なし: 船体運動を無効にし、制動事象を分離 | モデル設定 |
| 比較用の反事実ケース | 吸収装置を剛結リンクに交換し、ほかは変更なし | モデル設定 |
同じ5秒間を2通りで解析
時系列が主たる結果である。1つの制動事象を、剛結リンクと吸収装置でそれぞれ1回ずつ解析した。これは確定的な単一事象であり、ランダムな外力はない。したがって各数値は時系列の最大値であり、統計的な極値ではない。
フック荷重のピーク、MN · クレーンSWL 24.5
剛結リンクでは、制動時にクレーンSWLの154%の荷重が必要になる。POLARISを介すと96.4%に収まる。
フックDAF · 静的基準16,553 kN
DAFは参考値であり、判定条件ではない。この事象の支配的な限界は、左図に示すクレーンのSWLである。
| 指標 | 剛結リンク | POLARISあり | 判定基準 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| フック荷重のピーク | 37,664 kN | 23,627 kN | ≤ 24,517 kN SWL | ✓ 96.4% |
| フックDAF | 2.28 | 1.43 | – | 報告値 |
| 吸収装置下側のDAF | 2.41 | 1.31 | – | 報告値 |
| 完全なたるみの発生回数 | 2 | 0 | 0 | ✓ |
| 使用ストローク | – | 4.98 m (83%) | < 6.0 m | ✓ |
| 環状油室の残量下限 | – | 6.2% | > 0 | ✓ |
ピーク値は1 ms間隔の出力サンプルではなく、0.05 msの積分格子上で追跡している。急激な制動荷重をグラフ上の点から読み取ると過小評価になる。吸収装置下側のDAFは、ペイロード自体の静的重量14,710 kNを基準に報告する。 POLARIS
の選定は、定格荷重だけでなく、制動時のエネルギー収支(質量、速度、ストローク)に基づく。

この結果が成り立つ範囲
適用条件
- 1つの杭、1台のクレーン、1つの弁設定。 この結果は、杭やハンマーの質量、急落速度、クレーン剛性、弁荷重が異なる場合には適用できない。条件が変われば、補間ではなく再解析が必要である。
- ウインチや作業員の応答はモデル化していない。 最初の制動後に剛結リンクの時系列に現れる振動減衰は、同じ荷重伝達系の自由振動である。これは荷重伝達経路の挙動を示し、作業員の対応を示すものではない。
- 乾燥条件での、確定的な単一事象。 波浪も船体運動も、複数試行もない。この解析から、波浪中の挙動や杭の急落の発生頻度は分からない。
- 反事実ケースの結果は、妥当な範囲内にある。 剛結リンクのピーク37,664 kNは、このケースの2つの解析的推定値の間にある。クレーンを柔軟とした場合は34,190 kN、剛体とした場合は44,759 kNである。制動中にクレーンのばねが部分的に応答するためであり、閉形式の式ではその応答を表せない。
独立したソルバーとの照合
吸収装置ありのケースは、2026年7月17日にOrcaFlex 11.3eと照合した。両ソルバーでコードを共有しないよう、補償装置を測定に基づく力の法則に置き換えた。クレーンのピーク荷重の差は+0.23%、クレーンDAFはOrcaFlexの1.4299に対してCONSTELLATIONが1.4266、最大ストロークの差は−0.4%、制動全体のチェーン張力のRMS差は1%未満だった。
剛結リンクの反事実ケースは、Norwegian Dynamics独自の制動モードである。2026年8月3日に追加し、「装置なし」の結果を推定ではなく計算できるようにした。閉形式の式が厳密に成り立つ条件ではその制動結果を再現し、全荷重伝達系では独立した高剛性積分器との差が0.5%未満で、上記の2つの解析的な境界値の間に収まる。
この文書の位置付け
- 認証された解析ではない。 Norwegian Dynamics独自のモデルによる時間領域の推定である。海事保証調査員による承認はなく、案件固有の解析に代わるものではない。その解析の適用規格は DNV-ST-N001.
- 性能を保証するものではない。 実際の杭打設工事向けに供給する装置は、その工事固有の質量、速度、合否基準に基づいて選定する。
確認項目と担当
同じ数値の図の組は、
動的増幅係数 のページでも杭の急落の計算例として使用している。両方で同じレビュー済みの結果を引用し、数値の不一致を防ぐ。
解析記録
このケースを再解析するために必要な情報として、上記のすべての数値の根拠となる正確なプリセット、バージョン、定義、ソルバー設定を示す。
解析記録: 公開した技術的根拠
- ケース
- CONSTELLATIONプリセット factory:polaris_pile_run, シナリオパッケージDS10-PKG-POL-PIR、速度は5.0 m/sの1点、弁荷重は18,000 kNに設定(プリセットのデフォルトは17,658 kN)。
- バージョンと日付
- CONSTELLATION v1.2.96、コミット 29267cc。解析実施日: 2026年8月3日。吸収装置ありのケースは2026年7月7日に固定したケースであり、このビルドではDAFの差が0.05 %以内で再現される。
- 運用段階
- 杭の急落: 打設中の落下・制動事象(ND-DS-10 §10)。乾燥した空気中で、スプラッシュゾーンの外。
- DAFの定義
- DAF = 5 sの区間におけるフック張力の最大値 を フック位置での静的な吊荷重量で割った値。フック160 t + POLARIS本体17.10 t + ロッド10.85 t + ペイロード1,500 t = 1,687.95 t、すなわち16,553 kN。吸収装置下側のDAFは、ペイロード自体の14,710 kNを基準とし、POLARISありで1.31、なしで2.41。
- 評価した荷重点
- 吸収装置より上にあるフックとクレーン側接続部。吸収装置より下側のロッド荷重は別の計測経路であり、数値も異なる。
- 船体運動と海象条件
- 意図的に設定していない。 杭の急落は1秒未満の衝撃事象であるため、船体運動を無効にし、波浪荷重も与えていない。このケースは制動事象を切り分ける。記載するHs, Tp, スペクトル、波向はなく、この解析から波浪中の挙動は分からない。
- 解析時間、試行数、統計量
- 5.0 sの区間で、出力間隔は1 ms、積分間隔は0.05 ms。各ケースは確定的な解析を1回実施する。平均化すべきランダムな外力がないため、乱数シードも複数試行もない。記載のピークは時系列の最大値で、スプラッシュゾーン解析のような8シードの包絡値とは比較できない。
- ペイロードと荷重伝達経路
- 1,200 tの杭と300 tのハンマーを固定し、合計の衝撃質量は1,500 t、急落速度は5.0 m/s。荷重伝達経路: クレーン剛性17,454.3 kN/m、減衰66.85 kN·s/m、フック160 t、上側スリング49,762.8 kN/m、POLARIS本体17.10 t、ロッド10.85 t、下側スリング46,652.7 kN/m、ペイロード1,500 t。
- 初期状態と吸収装置の設定
- t = 0では、静荷重を完全に負担した時点から5.0 m/sで下降する。杭の急落に備えた索具構成では、柔軟なスリングはたるんで垂下し、ロッドは格納されたままなので、杭が急落するまでPOLARISには荷重がかからない。モデルはたるみが解消し、伸びた索具が静荷重を負担した時点から始まり、ガスは初期充填状態にある。同じ事象でスリングに到達するときの速度は約3.5 m/sである。索具が伸びる間、重量によって質量が加速する。スリング到達時の速度が5.0 m/sならエネルギーはさらに大きく、別途解析が必要となる。POLARIS 2,000 t / ストローク6.0 m、弁荷重18,000 kN、ガス初期充填荷重15,696 kN、ガス体積比0.40。解析で使用するストロークは6.0 m中4.98 m(83 %)で、環状油室は空にならない(残量下限6.2 %)。
- 2つのケースは同一条件か
- はい。単なる主張ではなく、照合で確認している。両ケースは 1組の パラメータから生成する。スクリプトが各項目を比較し、吸収装置の有無を示すフラグ以外に違いがあれば解析を開始しない。質量、剛性、減衰、重力、初期状態、積分刻みは同じである。
- 支配的な限界
- クレーンSWLは24,517 kN(2,500 t)。POLARISありではフック荷重のピークは23,627 kNで、SWLの96.4 %。なしでは37,664 kNでSWLの154 %となり、5秒以内に索が2回完全にたるんで再び張る。ピーク荷重の数値だけでは、この挙動は分からない。
- 独立検証
- 吸収装置ありのケースは、2026年7月17日にOrcaFlex 11.3eと照合した。補償装置を測定に基づく力の法則に置き換えた結果、クレーンのピーク荷重の差は+0.23 %、クレーンDAFは1.4299に対して1.4266、最大ストロークの差は−0.4 %、制動全体のチェーン張力のRMS差は1 %未満だった。
- この結果の適用外
- 別の杭、ハンマー、クレーン、弁設定には転用できず、荷重表でもない。モデルにはウインチや作業員の応答がないため、最初の制動後の吸収装置なしの時系列は、同じ荷重伝達系の自由振動減衰を示す。
- 出典に関する注記
- 2026年8月3日までは「装置なし」のケースをシミュレーションできなかった。ロックしたシリンダーを模擬するためガス体積をゼロにすると圧力項が特異になるため、NDは代わりに 解析式による DNV-RP-N103のスナップ荷重推定値を公開していた。その値は、どの剛性経路が支配的とみなされるかで変わり、クレーンを柔軟とした場合は34,190 kN、剛体とした場合は44,759 kNだった。シミュレーターに剛結リンクの制動モードを追加したため、現在は反事実ケースを推定ではなく計算している。ペイロード側の結果は35,387 kNで、2つの推定値の間にあり、NDが7月に公開したクレーン剛体の値より21 %低い。
お客様の条件で解析
杭とハンマーの質量、クレーン、想定すべき急落速度をお知らせください。同じ制動解析をその条件で行い、基準を満たさない構成も含めて検討します。
杭の急落対策 では、このケースの物理的な仕組みを解説 · 衝撃吸収 では、エネルギー収支を解説 · ← ナレッジハブに戻る